ヴェネツィア

旅客機は私の中の時間よりも速く
空を飛んでしまうものだから、
私の中を刻む時計が狂ってしまって
私は少し時空をはみだしている。
前線は万国旗を渡したように横たわっていて
亜細亜の湿度が私を取り囲んでいる。
旅から帰るといつも
地表から少し浮き上がっていて、
それはあまり心地のよいものではないが、
しかしそのために私は旅をする。
そんな気がする。
運河を船は行き、様々な光の色が
私に飛び込んで来る。
道を走る車を見るのと何が違うのかといえば、
それは運河の水もまた流れている
ということだろう。
何もかもが流れていて、
全てが私に近づきそして遠ざかってゆく。
そういったきらめきを
ずっと昔から眺めていたのだ。
なつかしさというのは、
そういうところから来ているのだと思う。

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