
雨の日に調律師はやって来た。
「特に他の楽器と合わせることがなければ
少し高めに合わせておきますね」
と調律師は言った。
チューニングハンマーとフェルト
それからスティックを差し入れて
調律師が鍵盤を叩くとピアノは
澄んだ音を立てた。
「ピアノは木と革と羊毛でできています。
だから、一台一台違うのですが、
これはいい楽器ですね」
調律師はそう言った。
私は何か誇らしいような気持ちになった。
調律が終わったピアノを弾いてみると
音が全く変わっていることに気付いた。
調律する前は冷たく弾いても明るい音で、
わりと脳天気な楽器なのかと思っていたが、
調律した後のピアノは暗く冷たく弾けば
ちゃんと暗く冷たい音がした。
それから響きが増して、音が大きくなった。
共鳴のしかたが変わったのかもしれない。
ペダルを踏む足からも
音が伝わってくるようになった。
また少し狂ったころに伺います
調律師はそう言った。
雨はまだ降り続いていた。
私も何かの
調律師になりたい、と思った。