エンタングル

ひとりになりたいから旅に出る
と、その人が言うのを聞いて、そうなのかと思った。
私は旅に出なくても
ずっとひとりだからである。
もちろん人は、自分の思うように生きていれば
いいのであるから、かまわないのだけれど、
何かどこかが、私の中に引っかかる。
もしかしたら「ひとり」ということの定義
のようなものが、根底から違うのかもしれない。
距離を取りたいと
また誰かが言った。
言葉は事象の周辺をぼんやりとつつむ霧のようなもので、
そのものを射貫いてはいないのだ。
距離なんて、どんな時だって
遠いじゃないかと、私の中身が言う。
量子もつれがそこにあるのならば、
事象は時空を越えてしまうものなのだから。
そんなことを夜中に考えながら私は
洗濯機の糸くずフィルターを、
古い歯ブラシで擦っている。

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