明け方

雪が降ったのだと予報士は言った。
わたしには見えなかった。
回転する洗濯機の鼓動を聴いていると、
朝は赤くやって来た。
焼却炉の煙は、
いや、蒸気かもしれないけれど、
まっすぐ昇ってゆく。
唇が外気を感じて、
言葉は失われたままだと気付いた。
さまざまな事は
同時に動いていて、
わたしもまたその
さまざまな事のひとつである。
本のページをめくるとき、
浜辺で美しい貝殻を
見つけたときの気持ちを思い出す。
耳にあてて聞こえるのは
風の音だったか海の音だったか。
もうずいぶん長い間
海に行っていない。
そもそもわたしは、
山で育ったのだから
わたしの中に海はない。
不足したものを補おうとするのが
人というものかもしれない。

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