寿命

風の音が聴こえないんです、と滝沢は言った。
風の音って?
ファンが回って風が出るじゃないですか。
あぁ冷却ファンのことね。
私は排気口に手を当ててみた。
確かに空気は流れていなかった。
ばらしてみるか。
私たちは、ねじを外して鉄の蓋を取り外し、
ソケットからプラグを抜き、
バックパネルの爪を丁寧に処理して
ファンを外した。
見た目は壊れているふうには見えないけどね。
でもこれ、二〇〇四年ですよ導入したの。
ほぅ十二年前か、ファンの寿命って四万時間くらいだから、
とっくに倍以上生きてるな。
人間で言うと百六十歳くらいですね。
人間で言うな。
十二年前ってお前何してた。
僕ですか、僕はええと高校生かな
ボール蹴ってました。
若いな。
先輩は何してたんですか。
俺か、俺はええと。
滝沢これやっぱり壊れてるわ。
外したファンに電源装置を繋いでみたが
うんともすんとも言わなかった。
滝沢さ、
何ですか。
壊れてる、って岡山弁で何て言うか知ってるか。
知るわけないでしょ。
めげとる、って言うんだよ。
めげとる、ですか。
そう、これ、めげとる。
私たちは、めげとる、めげとる、めげとる
と交互に、言葉の意味が無くなるまで繰り返して
それから笑った。

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