ディスクリート

梅雨は明けたとみられる
予報士はまたしても曖昧な言葉を綴った。
しかし灼熱は確かにそこここにあって
ガス入りの水が似合う季節になっている。

星には星の軌道があって
それを進まざるをえない。
離れたり近づいたりするのは単に
軌道が重なるところがあるという
ただそれだけのことだろう。
同じ速度で同じ方向に進んでいるように見えても
わずかに速度は違っていて、
時間を重ねると随分と差がついている。
そんなものだ。

真夜中にタクシーに乗ると
窓が開いていて冷房は入っていなかった。
暑い夜だった。
空気の入れ換えをしているのかな
と思ったけれど、いつまでもそのまま走り続けた。
耐えかねて言おうかと思った時、
車は公園の側の道にさしかかった。
開いた窓から盛大な蝉の鳴き声が流れ込んできた。
こんな夜中に蝉が鳴いている。
遠くでカナカナと鳴くヒグラシの声も聞こえてきた。
私は顔を上げて、公園の方を見たけれど、
黒で塗りつぶされていて、星のように浮かぶ外灯が
点々と見えるだけだった。
ただ蝉の声で満たされていた。
もしかしたら私は
これを聞くためにこのタクシーに乗り合わせた
のかもしれない、などと思ったが、
偶然とは想定の外側にあるもので
それが人を曲がり角に立たせるものなのだろう
そんなふうにも思った。

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