夏ニ至ル

世界が夏に至った日
私は油の切れたギアを回転させて
坂道を登っていた。
空気は私に向かって流れていたけれど、
不必要な水分をたっぷり含んでいて
限定された範囲の未来について
憂いを感じなければならなかった。
それは所謂、地軸の傾きの問題として
片付ければいいことであるが、
ひとつの生命にとっての問題でもあった。
たとえ話が多すぎて分からないわ
と、彼女は言ったような気がしたけれど、
私はたとえ話なんかしていなかったのだ。
それはつまり行き止まりだった
というだけのことだった。
何事も今から思えば、であるけれど。
あらゆる記憶の断片が緑色に塗られているのは
単に私が公園のそばに住んでいた
というだけのことではないだろう。
幼い頃から緑色が好きだった。
果てしなく山の中に住んでいたにも関わらずである。
植物には緑色の血が流れている。
それが命の色であるならば、
我々人間はみな赤色の生物であろう。
電車はどこまでも走って、行き先も終着駅もない。
要するに環状になっているのだ。
誰もが途中下車をして、二度と乗り込んでは来ない。
私はいつまでも
窓の外を見ていた。

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