風呂場の鏡は
世界を正しく映してはいなかった。
鱗状に水垢が付着して
それは白濁していた。
そのようなことを憂えている人々は
電子の森の中には沢山いて
ある者はクエン酸がよいと言った。
それで私は街でクエン酸の粉末を買ってきて
水に溶かし
キッチンペーパーでパックしてから
流して見たけれどあまり変わらなかった。
うそつき。
またある者はアルミホイルがよいと言った。
それで私はアルミホイルをくしゃくしゃにして
水に濡らした鏡を擦ってみた。
クエン酸よりましかと思うが、
期待したほどではなかった。
うそつき。
そしてまたある者はダイヤモンドパットがよいと言った。
私はアマゾンでそれを買った。
人工ダイヤモンドの粉末(?)を仕込んだ
スポンジのような研磨パッドである。
水に濡らした鏡を擦ると、かさかさとした
鏡の表面が滑らかになってゆく感触があった。
だいぶん改善した。
鏡はまた世界を映し始めた。
ほんとうを見つけた。
しかし、乾いてみると、完全にとはいかず、
少しまだ水垢が残っている。
私は風呂に入る度に鏡を磨いている。
私を映すものを磨くことで、
私と私のコピーとの関係が変化する。
それはいいこと、であるはずだ。

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