ひとつだけ

春ですか、そう訊くと
そうじゃないの、と誰かが答える。
季節の区切りは明確ではなくて
ぼんやりしたものである。
わたしは明解さを学んできたが
世の中というのは本来
不明確なことでできているようだ。
ある日、
ある公園の
ある桜の木で
花びらが五つ開くと
東京が開花したことになるのである。
それはなぜか。
そう決めたからである。
決められた事を求め
決められた事に安心する。
それが我々というものなのだろう。
空気が乾燥すると
空が青いのですよ。
予報士はラジオの箱の中で
そんなことを言う。
わたしは窓を開けて
空を見るのである。

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