通過

台風が前線を吹き飛ばして
蝉が鳴いている。
かつて朝の路上にはびこった
コドモの群れはもうおらず、
ただカンカンと光が差している。
私は淡々と生きているだろうか、
自転車のペダルを踏み込みながら
そんなことを考えていた。
夏が来ない人もいるだろう。
虫は茂みで鳴くもので、
その姿は見えない。
私は地球という星に乗って、
宇宙空間を秒速十キロ以上の速さで
移動しているらしい。
知らん顔をして
回転しまくっているのだ。
滑稽な話ではないか。
私は単なる管である。
管に何かを通すことによって
遺伝子を蓄える貯金箱のようなものだ。
通り過ぎてゆくことが
私のすべてである。
老人が雨の中で水を撒いている
という小説を読んだ。
水は管から溢れ出している。
そしてそこに意味があるわけではないのだ。
意味付けしたいのは
それを見ている人たちなのである。

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