入梅

雨の季節を「梅雨」と言ったのは誰だろう。
そうしてそれは単なる雨期ではなくて
梅雨というものになった。
言葉は大きな力を持っている。
直面する状況を少し歪ませたり
持ち上げたりして、もう少し
ちゃんと収まるように変形させる。

駅前の駐輪場に行ったら自転車がなかった。
左手には大きなスーパーの袋を
右手には黒くて重い鞄を持っていた。
スーパーの入り口に積んであった梅のパックに
和歌山産というラベルが付いていたな
というようなことを思い出していた。
誰も飲まない梅酒を
今年も漬けるべきなのだろうか
などと考えていた。
自転車は損なわれてはいない。
雨で置きっぱなしになっていたはず
と、思い込んでいただけで
実は自分で乗って帰っていたのだ。
だいぶん惚けてる。
私は駅の方に引き返す。
荷物がより重くなった。
また少し雨が降り始めていて、
私の気持ちを少しだけ救ってくれた。

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