本棚の隅でパンフレットを見つけた。
「ネロリ」ではなかった。
それは「マルメロの陽光」という静かな映画だった。
パンフレットを買っていたということさえ忘れていた。
ビクトルエリセ監督が撮ったアントニオロペスの映画。
1993年の公開だった。
マルメロとネロリ。
同じ柑橘系の果物に関することだから
どこかで記憶が交錯したのだろう。
見たり聴いたり触れたりしたものが
記憶の沼の中に沈んでいって
経験という形の無いものに変わってゆくのを
私はよく知っているような気がするけれど、
何かで補完しなければ
取り出せなくなるものがあることに
幻想的な感覚を抱き
またそれが怖ろしいことだとも思う。