すべての人が魔法使いになりたいわけではない

科学というのは
魔法の原理を知ることだと思う。
それは本来、魔法使いに必要なことで、
私は知らなくてもよいのだが、
それを教えられて育ち
そのようなことを少し使って
技術を生業として生きている。
言ってみれば、少しだけ魔法使いである。
魔法使いは職業の病として
不思議の感覚が激減する。
何を見ても、それを科学的にとらえようとする。
結果として「あたりまえ」という考え方で
多くの部分を満たそうとするようになる。
あからさまに言わなくとも、
どこかでそう感じている。
本当は魔法使いにとっても
そういう考え方はマイナスなのである。
心は不思議で満たされていなければ
創造的なものはできあがらない。

また雪が降った。
記録的だとか、記録開始以来だとか
テレビジョンの四角い枠の中から言っている。
「はじめてこんなに沢山降りました」
と言えばいいのに、と私は思う。
またしてもデータに基づいて科学的に
表現しようとするがゆえに
そんなつまらない表現になっている。

深夜バスは定刻にバス停にやって来た。
がりがりと蹄のようにチェーンの音を響かせながら。
がくがく揺れて私は
降りしきる雪の中を帰った。
わずかに気温が低いだけで、
ふつうは見えない透明な水が
白い塊となって私の前に析出し
何もかもを覆い隠す。
そしてまた気温が上がればこれは
色を失い、そしてどこかに消え失せるのだ。
もしかしたら私も、同じようなものかもしれない。
不思議なことを
不思議だと思えるように
生きていたいと思う。

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