くれもな

年末からクレモナとヴェネツィアに行っていた。
クレモナにはいつかどうしても
行っておかなければならないと思っていた。
しかし、「いつか」なんて
来ないのだということに私は
ずいぶん前から気付いていて
それで、いつかを今にするために
航空券を買って、ホテルを予約した。
ただそれだけのことだ。
どちらもコンピューターの前でできる。
あとは少し歩いて、そして座っていただけだ。
それだけのことで、5000マイル以上離れた
場所の空気を吸い、霧の中を通り過ぎて
目的の道に立ち、それから河の流れを聴いた。
30年以上前に観たテレビドラマに
「川の流れはバイオリンの音」というのがあって
そちら側の世界に触れたかったのだ。
それはもうずっと昔のことだが、
人というのは25歳の世界観を
一生持って生きてゆくのである。
何も古くはならず、身体だけが老朽化する。
変な日本人が
via del saleの看板の写真を丹念に
撮っているのを
クレモナ人は不思議そうな顔をして見ながら
通り過ぎて行った。

ドラマ「川の流れはバイオリンの音」(なんとフルサイズでアップロードされていました)

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