霜月

霜月の世界は
秋らしい装いの気象予報士が
四角いフレームの中で
棒を振りながら語るほど穏やかではない。
太陽は黒い雲で押し殺されていて
ささやかな鳥の鳴き声は
低い車の音に流されている。
これはもしかして
冬の景色なのではないか
ベランダで洗濯物を掲げながら
私は思うのである。
風の巻物である台風に
気を取られているうちに
秋というものが消滅したのだ。
私の一番好きなはずだった季節がひとつ
なくなってしまった。
そのことに、深く愁いをもって喪に服す。
実際のところ、
どんな事からも遠いのである。
ささやかな希望を持ってしまうと人は
そんなことも忘れてしまう。
しかしそれは、特に問題ではない。
ただ、もとに居た場所に
戻ってゆくだけなのである。
それはとても簡素なことである。
洗濯物は少し風に揺れているが、
夕方までにはとても乾きそうにない。
私はそれを薄いレースのカーテン越しに
見ている。

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