日常

髭や髪はすぐにのびて
時間の経過というものを顔に表す。
変わってゆくのである。
朝になると人々はそれを剃り
また月に一度はそれを切ったりして
時間を巻き戻す。
そして何事もなかったように
家を出て、どこかに行き、誰かに会う。
なぜそうするのか
そういうことは考えぬまま、
あるいはみっともないから
そう考えている。
あるものの形をずっと維持することは
とても面倒なことである。
道具も金も時間もかかることである。
けれど、人はそれを
代償を払っても行う。
自分が「自分」ではなくなってしまわないように
自分の形を整える。
それがふつうというものなのである。
なるほどな、と私は思う。
ベランダで洗濯物を干していると
編隊を組んだ飛行機が
何組も南の空に飛んでゆくのが見えた。
陽射しにキラリと光って
やがてそれは黒い点のように小さくなり
そして青色に溶けてしまった。
遠くなればそうやって
見えなくなってしまう。
私はベランダで
いつまでも陽射しを浴びていた。

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