饅頭

どこかに行った土産だと言って
小さな袋に入った饅頭やチョコレートが
机の上に置かれると同僚は
丁重に礼を言って受け取る。
しかし、それが食べられることはなく、
そのまま机の上、
あるいは引き出しの中に放置される。
そして、賞味期限や消費期限を遥かに過ぎて
とても食べられなくなったころに
それはそっと棄てられる。
同僚は甘い物が嫌いなのだ。
「だったら貰わなければいいじゃない」
大掃除の時に
大量に饅頭を棄てている同僚に言うと
「だって悪いじゃん」
彼はそう言った。
受け取らないことと、
それを決して食べないことは
彼にとってはまったく違うことなのだ。
そして、食べないから棄てるのではなくて
「食べられなくなった」から棄てるのである。
葬るために時空を越えることも
彼のデリカシーの形なのである。
なるほど
考えてみれば
世の中にあるものは何もかも
時間が経てば自動的に消滅する。
困難な指令を記した文章だけではない。
私たちの全てが損なわれ、葬られるのである。
同僚は時間の使い方を知っている。
しかしそれは、とてもずるいことではないか
この頃そう思う。

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