にんじん

紛れもなく根である。
そんなこと、知っている。
時々、にんじんのことを考える。
もしもあれが、
オレンジ色でなくて土色だったなら
日常的に食べようと
思わなかったのではないだろうか。
たとえ味が根そのものであっても、
色が私を誘うのである。

良く切れるピラーを買って、
にんじんの皮をすっと剝く。
にんじんには
とても薄い本当の皮というものがあるが、
売られているものには
すでにそれはないのだそうだ。
だから、私が剝いているのは
第二の皮だろう。
田舎の家の前にあった畑には
にんじんを植えていたが、
にんじんに対する興味というものが
まるでなかった私は
それを見てはいなかった。
そういえば、にんじんの旬というのは
そろそろである。
母が死んでからあの畑は
誰も耕さず何も植えられてはいない。
ただ草がぼうぼうと生い茂る荒れ地になっている。

私はひとりにんじんを刻んで
酢の物にしてみる。
そしてカロチンという物質を
摂取するのである。
そういったような秋のはじまりである。

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