光が弱くなった。
わたしは目を上げて
燃えるフィラメントを見た。
たぶん電子レンジのせいだ。
客たちは何も気付かなかったように
ただ笑って酒を飲んでいる。
夜の光について思う。
蝉が真っ直ぐ飛んでくる。
それはまるで落下するような軌道で。
そして端に座る男の背中にとまる。
客たちはざわめく。
小さな侵入者に対して。
蝉は光を目指したのだろう。
その隣の男が、
静かに、そして素早く蝉を掴む。
そして開け放された入り口まで歩き、
闇に投げた。
チチッっと音を発して
蝉は夜の向こうに消えた。
なくなってしまえば、誰も興味はない。
わたしはレモンサワーの
おかわりを頼んだ。
どのような場合も
分からないことで心は乱れる。
相手のことなど誰も分からない。
わずかな情報から
想像するしかない。
それが正しいわけがない。
納得できる答えを見つけようとしているだけだ。
馬鹿みたいなことだが、
悲しみはそういう所から流れ出している。
タオルを絞って
穴に詰め込もうとするが、
そんなものでは、完全に止められはしない。
もちろんそんなことは
知っているけれど。