ゆでだこ

空は相次いでフラッシュを焚くのだが、
何も撮影した気配がない。
それで私は電話のような写真機を鞄から出して
空を取り込んでみるのだ。
不安定な空はうるさい。
ごろごろ、ごろついている。
ぼつ、ぼつぼつ、ぼつぼつぼつと
空の液体が落下してきたかと思うと
どー、という音で何もかも包んでしまう。
いったいどうしたのですか
何があったというのですか
と私は訊いてみるのだけれど、
やはり誰も答えない。
うつむいて、硝子の板を撫で回す人になる。

先程転写した空を指で広げてみると
光の筋が写り込んでいることが分かった。
捕まえたのだ。
何しろそいつは何万ボルトもある代物で、
もしも近くで出会えば、あの世行きである。
君の瞳は一万ボルトと繰り返す吞気な唄が昔あったが、
亡くなってしまってはもともこもない。

それにしても、灼熱の日々。
最高気温が35度以上の猛暑日が、
4日以上続いたことなど、この100年で四回しか無いのだ
と、さっき斉田さんが言っていた。
猛暑日という言葉が出来たのは、2007年だそうだけれど。
さて問題は、風呂上がりに
冷蔵庫から麦酒を取り出して飲むかどうかである。
いや、何も問題などない。
悔いのない人生などあるものか。

カテゴリー: 諸行無常 パーマリンク