テープ

カセットデッキにカセットテープを入れて、
再生ボタンを押したけれど、
音楽は出てこなかった。
ぎー、きゅるきゅるきゅる、
と彼は言って、かたんと停止した。
何度やっても同じこと。
The best of CCRと
下手くそな文字で書き付けられた
カセットテープは再生不能だった。
なんだよぅ、と私は思う。
古いものは、こうやってあからさまに
私の前で動かなくなる。

最近、「ハイフィデリティ」という映画を観た。
登場人物たちは、カセットテープをまだ
楽しそうに使っていた。
それが何だか良くて、
自分もカセットテープを再生してみたくなった。
あれは、2000年頃の映画。
そういえば、2000年というのは、
カセットテープが死に行く年だったと思う。
もうレコードは完全にCDに変わっていたし、
MDでさえ危うかったのだから。
このカセットデッキは1998年に買ったもの。
まだ15歳じゃないか。

「テープを作る」というのは
わりと楽しい作業だったように思う。
もしかしたら、単にテープという言葉が
好きだっただけかもしれない。
今では単に「プレイリスト」というものを
作ればよいだけなってしまった。
便利である。
しかし、便利というのは何か
大切なものを消してしまうような
そんな気がする。
いや、それはきっと私が歳をとっただけだろう。

「みつける」ことに力を注ごう。

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