月夜

まるくて、明るい月が空にある。
それがベランダから見えて
私はなめらかな風にあたっている。

この頃、休みの日は眠ってばかり。
人は夜、眠るものだと知っているけれど、
こうして昼間も眠ってみると
眠りの向こう側にあるものは、少し
違うような気がする。
私たちは、地球の回転に合わせて
眠ったり起きたりしている。
地球儀のように、すぐそばから
大きな目で見ていたら奇妙な玉だろう。

怒ったり、悲しんだりしている人を見ると、
水面に石を投げ込んで
広がってゆく波紋のように
不可解な揺らめきが広がってゆく。
そうして波紋は、向こう岸ではね返って
また戻ってくる。
悲しみの感染症というのは、そうやって
行ったり来たりして少しずつ薄くなってゆく。

電車を待ちながら
紫陽花の色を見る。
存在というものは、自然に入ってくる。
しかし、この紫陽花のこともきっと
すぐに忘れてしまうのだろう。
私は、とても遠いところから、ここに来た。
旅行者ではなくて、長くとどまるために。

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