
風の香りが少し甘く感じたら
それが春というものだろう。
いつまでも煙は、南にたなびいてはいない。
テレビの四角い画面の中で、
ソメイヨシノが開花したと言っている。
去年よりも半月も早いんです。
そう言っている。
それがどういう意味を持つのか
私にはわからないけれど、
季節はそうやって早回しになっている。
あと一週間もすれば、
公園は嬌声で埋め尽くされるだろう。
ソメイヨシノは同時に咲く。
花見客も同時に来る。
何かを同じタイミングで行うことは
流行みたいなもので、
そういうことが少し苦手な私は
もっとばらばらに桜が咲けばいいのに
と思ったりする。
近所の公園に数本だけある河津桜は
もうすでに七分咲きになっている。
静岡の桜で、早めに花を開く。
全てが一気に咲いて
全てが一気に散るなんて
なんて悲しいことだろうと思う。
人は一気に来て、
桜が散れば一気に引く。
物事は徐々に損なわれるべきだと
ベランダに立って私は思う。