厳寒

ときどき、雪が落ちてくる。
銀色の空。
クマは冬眠しているに違いない。
穴の中で夢を見ている。
食べ物があってもなくても
冬が厳しくても
命を繋がなければならない。
漁師は銃に油を塗っているだろう。
僕はイタリアみたいな長靴を履いて、
摩擦の少なくなった世界を歩いてみる。
冷たいという言葉が
実際に温度が低いということと結びついたのは
かなり歳をとってからだ。
感覚というものすべてに、
言葉が付いているわけではないだろう。
そんな日は熱燗だ。
おとな、というのはそういうことなのだ。
喉を下ってゆく熱い液体が
僕を暖め、そして癒すのだ。
闇雲にアルコール度数の高い酒を飲む必要はない。
温めればいいのだ。
ほら単純なことでしょう。
白い雪は夜にも白い。
最近、花の色を見ない。
福寿草という花をもうずいぶん見ていない。
花屋になりたかったのは誰だったか。
僕ではない。
冬は手が冷たいんですよ。
そう聞いた気がする。

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