ベルの亡霊

ジリリリリリ、というベルの音は
心の奥まで恐怖というものを
届ける音だと思う。
以前は大きなベルが二つもついた
目覚まし時計を使っていたのだけれど、
こんなの使っていたら
寿命が縮まると思って、棄てた。
はずだった。
この間、眠っていたら、
真夜中にベルの音を聞いた。
多分、三秒ぐらいの間、
私のベッドの周りで鳴り響いた。
心臓が止まるかと思ったが、
音はすぐにやんだ。
これはもしかして夢の中なのだ
私はそう思った。
けれど、一時間おきくらいに
けたたましいベルの音が、やはり三秒くらい
鳴ってはとまる、というのが繰り返された。
さすがに朝方、これは夢でも金縛りでもない
と悟った私は、起き上がって灯りを点け
ベッドの周りを点検した。
そうしたら、あったのだ
あの大きな二つのベルがついた目覚まし時計が
ベッドの下の箱の中に。
埃を被っていて、デジタルの文字も消えている。
何年も使った記憶が無く、もちろんスイッチも
オフになっている。
これが、本当に鳴ったのだろうか、と私は思った。
それにしても、棄てたはずの目覚ましが
なぜこんなところに。
何かの思い違いだったのだろう。たぶん。
私は裏返して、蓋を開け、電池を抜いた。
それから、不燃物の袋に放り込み
また眠った。
もう、ベルの音は鳴らなかった。

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