夢の売店

宝くじというものは、
あれは、ほぼ当たらない。
交通事故で死ぬ確率の方がよっぽど高い。
詐欺みたいなものだ。
ただの紙切れを売りつけている。
毎朝、宝くじ売り場の前を通ると
ろくおくえん、ろくおくえん
と脳天気な、あるいは企みを含んだ
女の声が繰り返し流されていて、
ろくおくえん、という単語が
この世のものとは思えなくなる。
そもそも夢は見る物で、買う物じゃないじゃん
そう思った時、頭の上をごーっと音を立てて
モノレールが通過する。
しかし誰も、上を見る人はいない。
あ、と私は思う。
寒空に消えた四角い箱が想いを運んでくる。
そうか、「夢」というのは
願いでもプロセスでもなくて、
想うことなのだ。
六億円が当たった自分の
その後の世界のことを。
マッチの炎の中に、幸せな家族を見るように。
それが夢というものなのであって、
実際に目的を遂げることではなかった。
そして救われるのだ。
当たらなくてもいい、
紙切れを買っても、買わなくてもいい。
扉を開けて、隣の世界に移動する。
なんだ、簡単なことではないか。
そうして、バスはやってきて
私の前でドアは開くのだった。
足りないのは確率ではなくて
私の中の夢の含有率なのだ。

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