バックグラウンドミュージック

新しいiPodを買った。
音楽を聴きながら
始めて街を歩いた時のことをおぼえている。
それはもう随分昔のことだけれど、
こんなことがあっていいのか
と思うほど、素敵なことだった。
何もかもが映画の中の世界だった。
ばらばらに存在し、蠢いているものが
同じビートの上に時を刻むことで、
意味を持ち始めるということ。
ファンタジー映画で
突然、皿やカップが歌い出すような
そんなことにも似ていた。
いまではもう、そんなことは
当たり前になっていて、
どちらかというと、歩きながら
音楽を聴くということの方が主になっている。
現代に生きる人々は
家に帰ってゆっくり音楽を聴く時間すらない。
しかし、そのせいで
音楽という物は背景になりつつある。
つまりそれは意識の外側に配置される
ということである。
もはや音楽は世界を動かすビートを刻まず、
耳を塞ぐための栓のようになっている。
もちろん何事も多様であってよい。
しかし私は、自分の中にビートを持ちたい。
自分の世界をそれにのせたい。
たぶんそれは私が音楽を持つことだろう。

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