私の写真

片付けていたら、何枚かの写真を見つけた。
その写真には自分が写っていた。
たぶん、いつかどこかで誰かが私を撮って
わざわざプリントしてくれたのだ。
しかし、それを誰に貰ったのか、
いつ、どこで撮ったのかさっぱり思い出せなかった。
なぜなら写真には、にやけた中年の男が
大写しになっているだけで、背景もなにも
ほとんど写り込んではいなかったからだ。
自分で自分の写真というものを撮るのは
なかなか難しいので、自分が写った写真というのは
いつも人に貰うことになるのだが、
人が撮ってくれる写真というのは、
このように、「私」しか写っていないものが多い。
私が見たい私の写真というのは、私ではなくて
圧倒的な風景に写り込んでいる小さな私
なのであって、私そのものではない。
私が世界のどこかに、ひっそりと存在していた
という事実を客観的に知りたいのだ。
私は私の写真をシュレッダーに放り込む。
機械はしばらくのあいだ、駆動音を響かせ
そして静かになった。

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