肉を焼く

「俺たちやったよな、一億いったもんな。
 起業で当てるなんてさ、宝くじより確率低い
 とかなんとか言うやついるじゃん、
 俺たちの場合、全然宝くじより確率高いよな。
 俺さ、昔からいつかぽっと一億ぐらい儲かるような
 気がしてたんだよ。そしたらこれだもんな、来たね、
 やっぱ願いってのは叶うんだよな。
 たかだか、二十五歳でさ、すげぇよな。な」

 隣の席になった三人組のうち、よく喋る男は
 あまり肉を食わず、七厘の上でぼうぼう燃える
 ホルモンを見ながら、延々と儲かった話しをしていた。
 ひとり、というのは周りの事がよく見えたり、
 聞こえたりするということでもある。
 僕は僕の七厘で、玉葱を焼いていた。

「お客さん、ちょっとそれ焼きすぎですよ」
 店主の工藤さんがトングを持って現れて
 隣の客の肉を火から遠ざけるようにいじった。
「あ、どうも」
 隣の男が言い、それぞれが肉を取って口に運ぶ。
 ほんの少しだけ、静寂が訪れた。

 それからも、ずっと彼らは儲かった、良かったと
 いう話しをミニマルミュージックのように繰り返し、
 その合間に肉をつついていた。
 都心に引っ越す、車を買う、新しいスノボを買う、
 来年は百億やろう、そう思ってれば十分の一くらいは
 手に入る。そんな話し。

 儲ける、というのは確かに活動の基本かもしれない、
 けれど、その歳で、儲けるということが目的に
 なっているのって、どうなのだろう
 と、儲かっていない僕は思うのだった。
 もしかしたら、結果と目的というのは、一緒にした方が
 効率的で分かりやすいのかもしれないけれど、
 どうも何か、自分の中のどこかが、そういうことって
 いやらしいな、と思っている。

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