月別アーカイブ: 2012年5月

「壁なんか壊さなくていいのよ、窓を開ければいいの」 　ヨーコさんは、そうトキコさんに言ったそうです。 　トキコさんが四角くて平べったい画面の中で 　そう言っていました。 　でも、窓がどこにあるのか分からない時は 　どうす … 続きを読む →

「お先に人生の墓場に行ってきます」 　などと言って結婚した須藤くんが 　チョコレートを配っていた。 　イタリアとフランスに行ったのだそうだ。 　あまり嬉しそうな顔には見えなかった。 　どうだったの？　と訊くと 「何度もセ … 続きを読む →

歩きたくなるのは 季節のせいだろうか それとも何か足りないものが あるのだろうか。 そんなことは分からない。 世の中には理由のないことが沢山ある。 そういうものは 解釈されることを望んでいる。 意味というのは見つけるもの … 続きを読む →

太陽と月を同じところに見る ということは、とても特別なことで、 人生の中で何度もあるわけではないが、 私たちは、歯磨きペーストのチューブから 押し出されるように生きているので、 何がどう大切なのか 考えるための余裕も必要 … 続きを読む →

叔母がこの世から消えて 十三年が経ったので、法事がおこなわれた。 川越の寺は古い寺だけれど 手入れが行き届いていて 「古い」というのはなくて 「歴史がある」という感じだった。 手をかけることは 当たり前の感覚を変化させる … 続きを読む →

降ってきた。 ぽつぽつと雨、降ってきた。 どこもかしこも雨で ワイパーはいつものように右と左に かきわけて雨。 そういうの、ちょっとどうかと思っても、 そういうふうに出来ているのだから そういうふうに受け入れざるをえない … 続きを読む →

「思い切って彼女に告白したら、 　それ以来、遠ざけられるようになってしまって、 　僕、どうしたらいいんでしょう」 　酒井くんはホームの階段を下りながらそう言った。 　どうしたらいいか。 　残念ながら、その件について答えは … 続きを読む →

母は六年前の夏に死んだ。 ちょうど私の誕生日が葬式で 私はわらじを履き、母の棺を担いで 集落の出口に止まった霊柩車まで歩いた。 夏の暑い日だった。 母にちゃんと感謝を伝えたことはなかった。 私ばかりではない、兄も、父も、 … 続きを読む →

やらなければならないことが 沢山あるような気がしていて、 それのどれも面倒で そして手間がかかるだろう と思っていると 果てしなく眠くなって ベッドに倒れ込むようにして 眠ってしまう。 今日の場合もそうだった。 目覚めた … 続きを読む →

連なった休日は 強い風が吹いて終わりを迎えた。 緑の中をどこまでも歩いていると 突然目の前に赤い塊が見えた。 盛り上がるようにつつじの 赤い花がかたまって咲いていた。 僕は足を止めて そのコントラストを呆然と見ていたが、 … 続きを読む →