通夜

遺影は微笑んでいるように見えた。
それは参列者のためのものだ。
サイズの合わない礼服を着て
香を炭の上にまぶして手を合わせた。
友人の父親のお通夜はひっそりとしていた。
人が死ぬ。
永遠に目に見えなくなる。
目に見えなくなってから
大切なものになることが多い。
大切なものは目に見えないのではなくて、
目に見えなくなるから大切になるのかもしれない。
誰もが生まれて、そして死ぬ。
あと百年の間に、日本では
少なくとも一億以上の人が死ぬ。
命が失われることはたぶん
日常的なことなのだろう。
しかし、少しでも知っている人が死ぬと
自分の形が少し変わるのがわかる。
そうやって損なわれるものがある。
喪失はすなわち悲しみで
形は変化したまま変わりようがない。
変わったまま生きてゆくのだ。
そういうことを思いながら
夜の街をひとりで帰った。

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