沈丁花

夜のかどを曲がると君は
甘い花の香りにはっとする。
香りにひもづいている
懐かしい記憶が
その瞬間に広がったからだ。
しかし、暗闇から香ってくる
その花の名前を
思い出すことができない。
姿の見えない花の色を
思い浮かべてみるけれど
それさえも曖昧で
白色だったか紫色だったか
思い出すことができない。
今日、君はつらいことが
あったのだろう。
花の名前など
思い出さなくともよい。
せめて、花の香りで
いっぱいにすればよい。

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