私はとても熱に弱い。
それは、小さい頃から変わっていない。
子供は、少々の熱は平気で
元気に遊んでいるなどと言うけれど、
自分はそうではなかった。
39度を超えたりすると、
もう死ぬのではないかと思う。
ひとりで死んでゆかなければならないことへの
理不尽さを呪いながら、ぜいぜいと息をする。
日曜日は寒かった。
管理組合の寄り合いを終えて
帰り着いた時には体の震えが止まらないほど寒くて、
暫く横になっていたが、熱を測ったら40度近くあった。
それで、一番近い病院に電話をした。
電話に出た男が何を言っているのかまったくわからなかった。
彼は、電話を取ったまま、たぶん隣に居る人と
大声で何か話していたのだ。
なんだこれ、と思ったけれど、暫く待っていたら
「もしもし、なんすか?」と彼は言った。
「熱が高くて、診て貰いたいんですが」
「外科はやってないんすけど、救急で入って貰えれば
内科なら見ることはできます」
「はぁ、内科だと思いますが」
「あ、インフルエンザだったら、12時間位経ってからでないと
検査しても出ないんすよね。でも48時間以内にタミフルを投与
しないと駄目っていう、なんかこうジレンマっていうかあるんすけど」
「えーっと、それで診て貰えるんですかね」
「あー、いいすよ」
この病院には行きたくないと思っていた理由を思い出した。
医師は若い女医で、血圧も脈拍も測らず
胸の音だけを聴いてから、検査結果を見て
「A型インフルエンザですね、タミフルを出します」
と、足を組んで、斜めに私を見ながら言った。
「予防接種をしているのに、インフルエンザに感染する
ことってあるんですか?」
「感染していますね」
この医師は、事実しか見ないのだろう、と思った。
病に冒されている人間のメンタルというものを
理解せず、まるでエンジニアのように問題を処理
する医師が時々居るが、自分はたぶんそういう医師が
好きではないのだろう。
薬を貰って、コンビニで食料を仕入れて帰った。
インフルエンザの予防接種は毎年かかさずしているので、
感染したのは、初めてだ。
予防接種をしているのに、感染してしまう不条理さが
何とも自分らしいような気がする。
しかし、こんなに苦しいのも久々。
当面、何もかも休みだ。