遠い黒

てのひらを光にかざして
太陽の暖かさというものを
やわらかく感じることができるのが
冬というものかもしれない。
今年は、まだそれほど
ぬくもりというものが恋しくはない。
それはいいことだろうか。

空が藍色になるころ
窓の外を指差している人がいて、
外を見ると
遠くで、黒い煙が、太く昇っていた。
どこかで大きな火事だろうか。
不穏さはいつも遠くからやってきて、
それを薄く感じながら生きている。
けれど、多くの人は
まったく関心が無いような顔で、
画面を睨んで、キーボードを叩いている。
彼らは口をきくこともなく、
仕事の中にいる。
そういうふうに見えた。
やがて煙が闇と区別がつかなくなるころ、
小さな光がいくつも空に現れて、
円を描くようにパタパタと飛び始める。
ヘリコプターの音が
窓から風と一緒に流れ込んでくる。
国立のリサイクル工場が燃えているのだと、
ツイッターで知った。
しかし、それを誰にも言わない。
そして、ただ祈る。
生きているということについて。

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