
この頃、夜が暗い。
太陽が失われていることを夜というのだから、
それはしごく当たり前ではあるのだけれど、
東京では夜が暗いと感じる事が少なかった。
それはいいことでも、悪いことでもなくて
ただそれが普通に街の風景だった。
よく見ると、外灯が消えているわけではない。
消えているのは看板の照明だ。
看板の照明が普通ではなくなってしまった。
普通というものは、ある日突然失われる。
それを理解して受け入れることを
順応と言うのだろう。
我々は順応するように出来ている。
生きてゆくために。
たとえ普通が失われても、新たな普通を
作りだそうとする。
共通点を探そうとする。
そういう当たり前のことを
ただ茫然と眺めている僕は
田舎の暗く深い夜のことを思い出す。
月明かりと竹林を通り過ぎる風の音を。
それは、良いことでも悪いことでもないけれど。