昨日は一日、強い風が吹いていた。
朝、風の音で目が覚めた。
ごうごうと北の窓に吹き付ける風、
目覚めた時に風の音で満たされているのは
嫌いじゃない。
でも今住んでいるところは、幾分空に近くて
周りに木々もないから
耳を澄ましてみても、風は風の音しかしないのだ。
実家は山の中だったし、ぼろ屋だったから
風が吹くと色々な音がした。
竹藪を通り抜ける風の音、剥がれ掛けたトタンが
ばたばたいう音、建て付けの悪いガラス戸が
がたんがたんと揺れる音、
井戸端に掛けられた厚手の鏡が、カンカンと
柱に打ち付けられる音、何かが転がる音。
音楽を聴くように僕はそれを聞いた。
情緒というのは
様々な物の所在をささやかに感じることだろう。
風の吹く日は眠りに引きずり込まれる。
午後からまた一日眠った。
夜が明けると、風はすっかり止んでいた。
空が青くて、でも空気は冷たかった。
ずっと続いていた咳も随分少なくなった。
休むというのは眠ることだろうか。
どこからもずっと遠くなったような気がして
僕は何のあてもなく街に出た。
もう陽が落ちる頃のこと。