季節の始まり或いは終わりとして

冷たい雨が降って
それで季節が変わるのなら
それでもいいかと思う。
春が来るまえに
大変なことがあったけれど
それでもきっと桜が咲いて
暖かい春がくるのだろう。
いつだって、こころに
黒いものをかかえて
明日のことを思い悩むのは
ぼくたち人間だけだ。
きのう、あのひとが
生きていることを知りました。
きっともう会うことが
ないかもしれない人だけれど、
生きていてほんとうに
よかったと
しみじみと思う。
あたらしい衛星写真を
地図につなげてみると
そのひとの家の場所からほんの少し手前で
波は悪行をやめたようだった。
いのちを、つなぎ止めておくことが
どれほど難しいことか
だんだんはっきりと分かってきて
そしてぼくも生きている。

停電だろうと何だろうと
ふつうに会社は稼働します
だから、電気が消えたからといって
帰ってはいけません
もし、帰りたければ早退扱いです
と、偉い人は言った。
それで、灯りが消えて、サーバーも落ちて、
パソコンも落ちて、外は雨で、
夕方遅くになると、手元がかろうじて
見えるか見えないか
そんな部屋の中で、人が蠢いていた。
僕はぼんやりと本を眺めていたけれど、
何だかとてもばかばかしくなって
でも、ばかばかしくなる自分にも
ばかばかしくなって、ぼんやりするように
体の舵をきってみたら
あっという間に定時になった。
僕は時間をコントロールすることができた。
暗闇の中で身支度をして
半開きになった自動ドアをくぐり抜けて
外に出ると、
息が白く見える程には明かりが残っていた。
僕は、駅に急いだ。
誰が待っているわけではないけれど。

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