風の強い、冷たい日だった。
ビルの下を歩くとき、前に進むことが困難なくらい。
それでも空は青くて、それだけが希望だった。
そうして僕は北向きに歩いて、人間ドックにゆく。
年に一度確かめる自分のカラダのこと。
しかしまぁ、血液をたくさん抜いたり、
発泡する粉と、妙な液体の金属を飲まされれて、
ぐるぐる回されたり、ゼリーを塗ったコテ
みたいなものをぐりぐり押しつけられたり、
体中に電極を点けて自転車を漕がされたり、
それはまぁ何だかひどい扱いだ。
こんなに科学は進んでいるのだから、
何かの機械に寝そべって、ずずーっと一回
全身をスキャンしたらみんな分かるように
ならないものだろうか。
そう、思っているうちに検査は終わった。
それから、あまりに寒いので、うどんを食べたくなった。
つい最近まで、うどんは好きでも嫌いでもなかった。
好きでも嫌いでもないことって、実はたくさんある。
それは、それについての思い入れがあまり無いということでもある。
風に吹かれて僕は、うどん屋に歩いた。
うどん屋ののれんが風にはためいていた。
がらがらと引き戸を引くと、店員がおやという顔をして
こちらに振り返った。
あの、開店はまだなんですけど、もうすぐ開店しますからどうぞ、
しかし、うどんは開店してからゆでます。
そう少し回りくどい言い方で言った。
確かに客は誰もいなかった。
僕はカウンターに座って、鴨葱うどんというのを頼んだ。
暫くして、別のお客さんが入ってきて、それから続けざまに
お客さんが入ってきて、店が開店したのであろうことがわかった。
それからまた暫くして、鴨葱うどんが目の前に現れた。
醤油の味がほんのりと薄めで、出汁の効いた優しいうどんだった。
冷たくなった身体が温まった。