雨の丹念

ひどい雨だった。
あれは木曜日だったか。
終電は遅れていた。
駅前でタクシーを拾おうと思って立っていた。
通り過ぎるタクシーはみんな緑色の
賃走表示を出して通り過ぎる坂道。
ほんの暫く前までは雨の気配などなかったのに
小さな折りたたみの傘がカバーするエリアは
わずかだった。
翌日
鞄から文庫本を取り出すと
ページが濡れて
ミルフィーユみたいになっていた。
僕は一枚一枚ゆっくりと剥がして
そして、文字を読んだ。
小説が
いつもよりなんだか濃かった。
丹念というのは
すきな言葉だ。

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