死はいつも身近なところにある

カズオさんが死んだことを僕は知らなかった。
自宅で机に向かって仕事をしているスタイルで
冷たくなっていたのだという。
カズオさんは漫画家で四十一歳だった。
僕はカズオさんと親しいわけではなかった。
時々飲み屋で見かけて、挨拶をさせてもらう程度で
深くお話をしたこともなかったが
一度、夜中に飲み屋からタクシーで一緒に
帰ったことがある。
カズオさんの家は駅前だった。
寒い冬の夜で、カズオさんはニットの帽子を
深く被っていた。
これから一仕事しないといけないんですよネームをね。
と、カズオさんは言い、静かにタクシーを降りた。
カズオさんは優しい人だった。
冥福など祈らない。
死後にあるのは永遠の闇でそこには何もないと思うから。
そしてまた僕の形がほんの少し変化する。
僕を構成している要素のひとつが剥がれ落ちる。
カズオさんは独身だった。
カズオさん、これからまだ色々と
やりたいことがあったんでしょう。
もう、なんにも出来なくなってしまいましたねぇ。
僕にはそういうカズオさんのことが
ひとごとには思えず、今日もまた空を眺めている。

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