月が欠けることを喜ぶ人々

今日は月が欠ける日だったらしい。
それは皆既月食と言って、めったに無いことだから、
見ることを楽しみにしている人も多かった。
しかし、午後になると窓の外は乳濁して雨の匂いがした。
レーダーの水色が、アメーバーのように関東を浸食するのを見た。
これもひとつの食か。
そして、見えなくなる月は見えなかった。
実は宇宙の神秘、みたいなものが自分はあまり好きではない。
興味はある。でもあまり考えたくない。
宇宙における自分の存在について考えてしまうから。
つまり何もなかったことになり、そして何もないということが分からない。
ゼロをオフセットとして考えることは容易だけれど、
ゼロをゼロとして考えることが、僕にはできない。
人々は見えないものが見たかったのではなくて、
見えるものが見えなくなる瞬間を、
あるいは見えないものが見える瞬間を見たかったのだ。
雨は降り続いている。
朝には止むだろうか。

カテゴリー: 諸行無常 パーマリンク