価値とか意味とか

「おれ、おとなだけどさ、か、金もってこい」
ナオトはそう言って受話器を耳にあてたまま
眉をしかめて僕を見た。
小学生の時の話だ。
「あぁ、うん、そう。あぁ、じゃ」
ナオトはそう言うとガシャンと受話器を
放り投げるように電話機に戻した。
「どうだった?」
僕はナオトにおそるおそる訊く。
「しらね。どうでもいい」
ナオトはそう言うと上がり口からランドセルを
座敷の方に投げて、玄関から外に走り出た。
暗いナオトの家の土間から外を見ると
光が溢れていて、
どこか違う世界に脱出してしまったかのように見えた。
「おい、どこ行くんだよ。待てよ」
僕はナオトを追って、玄関から飛び出した。
あれは確か夏だった。
いつも、外に向かって走ることができた。
価値とか意味とか、そんなことを考える必要はなかった。
なぜなら、それは本当にどうでもいいことだったのだ。

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