消火器

この家に引っ越してから六年が経った。
色々な事が変わったとも言えるし、何も変わらないとも言える。
しかし実際、変わらないものなどないのだと思う。
戸棚の中にあった消火器は、五年が使用期限だったようだ。
管理組合で新しい消火器を、共同購入しようという話しがあり、
それの配布が今日だった。5,980円。どのくらい安かったのか
よく聞いていなかった僕には分からないけれど、普通より安いのだろう。
しかし、消火器は兵器と同じように、使うような事態に陥ってはならなぬ。
決してそのピンを引くようなことがないように生きてゆかなければならない。
備え、というのはそのようなものだと知っている。
そう思うと、消火器というのは恐ろしいものだと思う。
このノズルから消化液が吹き出す時は、何かが激しく燃えていて
それを目の当たりにしている時だから。
その時、僕はどういう気持ちで、このレバーを握るだろうか。
それを考えながら、黒いレバーに手を添えて、
圧力ゲージを覗き込んでみる。
泡が撒き散らされる時の衝撃を想像する。
それから僕は、戸棚の奥に、新しい消火器をそっとしまった。
使うことがないように願いながら。

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