窪美澄「ふがいない僕は空を見た」

この本には、生きることと、性的なことと、愛が書いてある。
なんて、言ってしまうと、何だか違うような気がする。
そのものをずばり指し示す言葉は、なんて陳腐なんだろう。
物事をちゃんと伝えるためには「関連」で表さなければならない。
この本は五つの短編が収められている。
窪美澄さんは、冒頭の「ミクマリ」で第8回「女による女のためのR-18文学賞」を
受賞した。主婦のあんずが求めるままに、コスプレでセックスを続けていた
高校生の斉藤卓巳と、その周辺の人々の様々な思いと、出来事についての小説。
体に近い所で書かれる小説というのは、いつも魅力的で、そしてちょっとずるい。
それは多分、そういった本能的な欲求が理屈ではない強い力を持っていることを
知っているからだ。そうやって強い引力を持った世界で、ちゃんと美しさを
書き記し、伝える力を持っていることに嫉妬する。そういう小説だった。

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